報告者 高橋秀則医師
1)E.K. 34歳女性
(主訴)全身痛(特に両下肢痛)
(現病歴)
H17 腰椎椎間板ヘルニアにて手術。その後両下肢痛あったが自制内であった。
H25頃より両下肢の激痛が時々発症するようになった。
H29.4 両下肢の重い痛みを感じるようになり、徐々に全身に広がるようになった。近医整形外科、内科を受診するも器質的な原因は不明とされ、消炎鎮痛剤を処方されるも無効であった。
H29.4.20 うつ状態が増悪し精神科治療のため入院となった。同時に痛みも増悪傾向のため、ペインクリニック科受診となった。
(既往歴)
H27.10 うつ病(同年11月~12月入院治療)
H28.12 子宮頸部、片側卵巣切除
そば、里芋、牛乳、魚卵、マンゴーにアレルギーあり。
(現症)
自覚的に両側上下肢全体の弱いしびれと両側大腿部中心の重い痛みあり。また経口摂取と関係なく腹痛、嘔吐、下痢が頻繁にあり。上下肢の神経学的所見に異常なし。
頸椎伸展で後頸部の痛みあり。両側大腿四頭筋の把握痛あり。
西洋医学的には筋膜性疼痛。
舌診、脈診などより東洋医学的には気虚、心陰虚、瘀血と診断された。
両側下肢の重い痛み、うつ、アレルギー(間脳蓄積症状)、吐き気、下痢(迷走神経あるいは疑核の障害)などより遠絡医学的には下位脳の障害と考えた。
(初診時までの処方)
デパス(0.5)2T分2、デパケンR200mg分2、ビオフェルミン2g分2、ソラナックス(0.4)2T分2、グッドミン(0.25)1T vds、サイレース1T vds、デジレル3T vds、ベルソムラ(20)1T vds、ファモチジン(20)1T vds、不眠時ベンザリン(2)1T、不穏時リスパダール0.5mg、不安時レキソタン1T、疼痛時ロキソニン1T+レバミピト1T
(臨床経過)
H29.4.25 第1診
処方式:To/2d+a+c+L4-5
両側AxIII//6/3!
両側AyII//6/3!
両側AxIII/bc+c+a/bc+c+a
直後は特に変化を感じなかったが、1週間に1度の遠絡療法を行うこととした。
H29.5.9 四逆散、疎経活血湯3包分3を開始した。
H29.5.10 第4診後より両下肢痛が劇的に軽減(半分くらいの強度)となった。入院時よりあった腹痛、嘔吐、下痢は残っていた。
H29.5.30 リハビリテーション後の筋肉痛はあるが両下肢痛はほとんど感じない。その代り両下肢のむずむず感が残っている。このころより、頻繁に頭痛、輝線暗点が生じるようになった。
H29.6上旬 下肢痛がある程度落ち着いていたので遠絡療法を休んだが、それに伴い両下肢痛は再燃、頭痛も増悪した。
H29.6.13 第7診。遠絡療法再開(週1回)。その後下肢痛、頭痛ともに軽減した。
H29.7.8 精神症状、痛みともに安定したため退院。今後は2週間に1度の通院加療の予定。
精神心因性の要因の大きい疼痛症例で、線維筋痛症に病態は似ていますが診断基準は満たしていませんでした。漢方薬との相乗効果で上手くいった症例と思っていますが、遠絡医学的診断、治療の面でご指摘を頂ければと思います。
当日のディスカッションの内容です。
(レコーダーから書き起こしました。
もし誤りがあればコメントで訂正頂けますようお願いいたします。寺木啓祐)
■高橋Dr.
ペインクリニックの外来の症例ですが、一人当たりの診療時間にあまり時間がとれません。トリンプルも無い環境ですので、押し棒のみで遠絡を行っています。SCの治療は指で押すことによって行っています。(気功の技術などを応用しています。)
この例は現在はまあまあ良好というところまではいっています。(以前のように痛みでどうしようもないということはなくなっています。)病態は西洋医学的にははっきりせず、治療も何が良かったかもはっきりしません。私は漢方と遠絡の相乗効果だと考えています。
■小泉Dr.
両下肢痛がSCからきているとすると、過去の腰椎椎間板ヘルニアは正中だったのではないかと想像します。
■高橋Dr.
確認しましたが、MRIではあまり所見がありませんのでヘルニアが原因とは考えにくいと思います。
■小泉Dr.
症状にはうつ、偏頭痛、下肢のむずむず感などがあります。偏頭痛はAtlas SC、うつやむずむず感は下位脳からと考えますので、処方には下位脳の治療を加えるとさらに良いと思います。
ちなみに私の経験からは、下肢のむずむず感に対してはAxIII,AyIII,AxII,AyIIの4ラインを入れると反応が良好です。この症例もこの4ラインを含めるといいかもしれません。
SCの腰椎レベルの治療をどの範囲で行うかを決めるのは、背部診で傍脊柱の腫れ、陥凹、圧痛などを確認して判断してください。