報告者 高橋秀則医師
N.K. 39歳女性
(主訴)右上肢痛
(現病歴)
H29.5.17 健康診断での採血目的で右手背に針刺入。その時は右手背の痛みだけ感じたが、同日徐々に右上肢全体にまで痛み、しびれが広がった。また右手全体の腫脹も出現、次第に増悪し、右手指の屈曲、伸展ができなくなった。
H29.5.24 神経内科受診、CRPSの診断で鎮痛薬(消炎鎮痛薬)処方されるも痛みは全く軽減せず
H29.5.30 ペインクリニック科受診となった。
(既往歴)
小児期より精神遅滞、てんかんあり内服治療中(コミュニケーションに問題なし)。
(現症)
自覚的には右肩から右手にかけての放散痛、しびれあり。頸椎伸展制限あるもJackson test, Spurling test 陰性。上肢全体の右上肢全体(特に右手)は左上肢に比べてやや腫脹ぎみ。右手指関節はやや屈曲位で固定され、屈曲も伸展も不可。右手は手掌、手背とも手関節以遠に感覚低下あり。右肩関節、肘関節の可動域は正常。頸椎MRIでC5/6の椎間板ヘルニア軽度あり。
西洋医学的にはCRPSの診断。
東洋医学的には経絡阻滞、瘀血水滞
(初診時までの処方)
ソラナックス(0.8) 1T vds、セレキノン(100) 3T分3、アルプラゾラム(0.4) 1T vds、カルバマゼピン(200) 2T分2、バルプロサンNa 3T分3
(臨床経過)
H29.5.30(初診) トラムセット3T分3、桂枝茯苓丸3包分3処方。頭皮鍼施行。治療後ある程度の除痛効果はあったが1週間後に8割方元に戻った。
H29.6.6 頭皮鍼+遠絡療法開始(1週間に1度)
処方式:
To/2d+a+c
両側AxIII//6/3!
右AyII//6/3!
右AxIII/bc+c+a/bc+a+c
右AyIII/bc+c+a/bc+c+a
H29.6.13 右手指の屈曲、伸展ができるようになったが、右手しびれは残存。右肩~右手への放散痛も時々出現する。
その後ADLも改善
H29.7.11(第7診)右手で箸が使える程度になった。しかし右手しびれのために長時間の手作業は不可。
遠絡医学的には区域性のCRPSと考えてrTyI/a+bc+c+d/a+bc+c+d, rTxI/a+bc+c+d/a+bc+c+d, rTyII/a+bc+c+d/a+bc+c+d, rTxII/a+bc+c+d/a+bc+c+d, rTyIII/a+bc+c+d/a+bc+c+d, rTxIII/a+bc+c+d/a+bc+c+d,という処方式になるのだろうと思ったのですが、あまりに手数が多くなりそうなのと、下位脳の障害を治療したらどうなのだろうという興味がありましたので、上記処方から始めてみました。結果的にはある程度の効果を得ていますが、ご批判を仰ぎたいたいと思います。
当日のディスカッションの内容です。
(レコーダーから書き起こしました。
もし誤りがあればコメントで訂正頂けますようお願いいたします。寺木啓祐)
■高橋Dr.
ペインクリニックの外来の症例ですが、一人当たりの診療時間にあまり時間がとれません。トリンプルも無い環境ですので、押し棒のみで遠絡を行っています。SCの治療は指で押すことによって行っています。(気功の技術などを応用しています。)
採血の穿刺後の症状なので、本来は区域性のCRPSを考えて治療すべきだとは思ったのですが、治療時間などの関係で、初回は短時間で行える頭皮鍼などを行ってみました。ある程度はよいのですがすぐに戻ってしまうということで、2回目からは遠絡を追加して行いました。下位脳の治療目的で万能式を行いましたが、結構効果があり初回から変化が出ています。その後1か月継続したところ、右手の痺れだけは残っていましたが、その他は良好だったため報告症例として準備してみました。ちなみに先週の7/18の治療で残っていた右手の痺れもすべてなくなってしまっています。
■渡辺Dr.
これは区域性のCRPSには当たらないと思います。区域性CRPSであれば、神経障害部位より遠位の症状として強い腫脹なども出るはずです。また、穿刺部は手背(TyII)ですが、上腕にも症状があるようなので、区域性だけではない神経線維破壊症候群TypeVI(混合型)で区域性+SCの障害と考えられます。
■小泉Dr.
右肩~上肢の放散痛のラインはどのラインでしょうか?
■高橋Dr.
確認をしてみたのですが患者さんは全部というのではっきりしていません。
■小泉Dr.
6ラインすべてに症状があるとすると考えなければならないのは、SCの頸椎、胸椎、腰椎レベルすべての治療をしなければ症状がとれないということです。
■渡辺Dr.
ここでは区域性は考えなくてもよいかもしれません。区域性は神経損傷から発症しますが、この例では神経損傷をしているような痛みではないように思います。そうすると血管性の影響と考えられますので、頸から下の胸椎、腰椎レベルの自律神経-交感神経幹のことを考える必要がありますが、実際にはTo/2d+c+aだけで改善してしまっていますね。
■高橋Dr.
私も胸椎、腰椎レベルに対応するラインも関係あると思っていたのですが、万能式のみで反応が良好だったので、そのままそれを継続して行いました。
■小泉Dr.
一般的にはすべての症状の確認は大事です。上肢の症状で胸椎や腰椎レベルに対応するラインに症状があれば、胸椎と腰椎の確認も行ってください。具体的には背部診による脊柱の側弯、傍脊柱の腫れや陥凹、叩打痛や圧痛の確認、胸骨上の圧痛の確認です。